初めまして。ドリームヒント、クリエイティブ綜合部の劉です。
さて、ドリームヒントにはおうちサロンの開業を夢見て技術を身につけたい、と言う生徒さんがたくさん通っていらっしゃいます。女性のライフスタイルの多様化とともに、働く女性を取り巻く環境も激変しています。キャリアを積んでバリバリ働くよりも、自分のライフステージに合わせて働き方を変える事が当たり前となって、自分で働く時間をコントロールできるおうちサロン開業を目標とする人も増加しています。
先日、四日市商工会議所で開催された『美容室・エステ開業セミナー』に参加した際にもたくさんの人が集まっていました。ほとんどが美容師さんだったようですが、開業を考えている方がこんなにもたくさんいらっしゃる、と言うのに驚きました。
セミナー内容は開業の際に必要な法手続きや、資金調達についてがメインでした。確かに開業と言うと、手続きやお金、資格など、派手なところに目がいきがちですが、それ以上に大事な消費者問題についてもしっかり知っておく必要があると思ったので、今回はその消費者問題について書いてみようと思います。
消費者問題を知ることで身を守る
エステ・美容業界と言うのは、顧客によって温度差が大きい業界だと思います。例えば、同じ地域で同じ年代の女性に、同じ時間帯にチラシを配ったとしても、温度差によって反応は本当に様々です。簡単に分類するとこんな感じでしょうか。
- エステ経験が豊富で数件のサロンに通っている
- エステ経験は少ないが興味がある
- エステ経験はないが多少興味がある
- エステ経験はなく興味もない
- エステと言うものに警戒心がある
- エステに対する警戒心が強い、または過去に嫌な経験をした
昨今の健康・美容ブームのお陰か、むげに断られたりあからさまに嫌な顔をされる事は減りました。しかし、年齢に関係なくエステに興味のある人が増えたと言うことは、マーケットが拡大し潜在顧客が増加ただけでなく、悪質な業者によって嫌な経験をした人もふえている、と言うことです。
実際、消費者委員会にはそうしたエステ・美容医療業界に関する相談件数も年々増えています。今回参加した美容室・エステ開業セミナーでも紹介されていましたが、消費者委員会によって2011年にエステ・美容医療サービスに関する消費者問題についての実態調査結果と建議の概要が公開されています。法律問題も含めた消費者問題や、広告に関する調査も合わせて行われています。
こうした消費者問題を知ることは、この業界の問題点やこれから開業・運営する際の課題を知ることにも役立ちます。何より、既に発生している事例を知る事で、今後おなじような問題が起こらないように注意して、万が一問題が起きた時に備える事も可能になります。開業を考えるなら、リスクマネジメントの観点からも必要になってきます。
エステ・美容医療に関する相談件数の推移(PIO-NET)
ここからは消費者委員会ホームページからダウンロードできる『エステ・美容医療サービスに関する消費者問題についての実態調査結果と建議の概要』について、順番に見ていきましょう。まずは2001年から2010年までにPIO-NET:全国消費生活情報ネットワーク・システムに寄せられた相談件数の推移です。
エステ・美容医療サービスに関する消費者問題についての実態調査結果と建議の概要 P.2
ここでわかるのが、この10年間で全体の相談件数に大きな変化はありません。美容医療に関する相談件数が2倍近くまで増えているのに対して、エステに関する相談件数は若干減っているように見えます。しかし、相談全体に対する割合はエステに関するものが圧倒的に多く、その数は毎年1万件を超える量が寄せられています。
当然ですが、これはPIO-NETに寄せられた相談件数のみですので、実際の数はこの2倍にも10倍にはなると推測できます。そして、美容医療に比べてエステに関する相談件数が減少しない最も大きな原因が、その多くが資格の有無を問わない施術であり、また業界の大部分が個人事業主による経営だからだとされています。
その施術、その商材、本当に大丈夫??
続いて、相談内容の具体例を見てみましょう。まずは、特別な免許が必要な施術です。
エステ・美容医療サービスに関する消費者問題についての実態調査結果と建議の概要 P.3
レーザー脱毛やアートメイクの施術には医師免許が必要となっています。また、まつげエクステは美容師免許が必要です。これらは始めの頃は特別な資格が不要だったものばかりですが、実際に問題が頻発した為に法整備されたものばかりです。
おうちサロンだから大丈夫でしょう!
うちはほとんど宣伝してないから大丈夫!
正直、よく聞く言い訳です。実際に、当校の生徒さんの口から聞いた事もあるご意見です。でも、本当に大丈夫ですか??お客さまが、お友達やご紹介だけだから、問題にはならないでしょうか??なにも貴方の技術が低いとか、ドリームヒントからもっと安全な材料を仕入れろとか、そう言ったお話ではありません。(ちなみにドリームヒントではアートメイクやまつげエクステ等の材料は販売しておりません。)
ここで考えていただきたいのは、問題になる時は必ずお客さまに異変が起きた時です。上記にもあるように、やけどをおったり、まぶたが腫れたり、肌がただれたり。そうなればお客さまは必ず病院へ
行かれます。病院での診察では必ず、医師が原因を特定する為に「何か特別な事をされましたか?」と質問します。そうすればお客さまは100%の確率で、貴方の施術を受けたと申告するでしょう。症状が重症であれば、医師はどこでその施術を受けたのか、業者を特定し、必要性を感じれば保健所や警察へ報告されます。先日のセミナーの講師曰く、実際にこうした事案から逮捕者が出ているそうです。大事なところですので、繰り返します。
既に逮捕者が出ているそうです。
これでもまだ、言い訳できますか?
さて、続いては『資格の有無は問わない施術』です。
エステ・美容医療サービスに関する消費者問題についての実態調査結果と建議の概要 P.3
正直、私はこの相談内容を見た瞬間「あり得ない」と思ってしまいました。何故なら当校で習得できるリンパケアは全てハンドのみを使用するからです。ハンドだけで湿疹が出るほど激しく揉んだり、皮膚炎になるほど摩擦することは、施術者の手にも影響が出ることは明らかだからです。
ただ、やはり痩身施術の場合は部分的に美容器を使う事もあり、当店でも美顔ローラーは飛ぶように売れています。今のところこうした事例は発生していませんが、例えば特殊な金属アレルギーのあるお客さまは、美容器や美顔ローラーに使用されている金属に反応する可能性はゼロではありません。また、高価な業務用のジェルやローションの中には鉱物系のものも多く、例えば金箔も安いものを使用すれば不純物としてアレルギーが出る可能性のある鉱物を使っている場合もあります。
こうした点から、サロンで施術に使用する物を選ぶ際は、メーカーさんやディーラーさんの言葉を鵜呑みにせず、流行に踊らされたり期間限定の特別価格の誘惑にも負けずに、確かな目で見極め、強い信念でそれを選ぶ事が大切ですね。
顧客への説明は十分ですか?
続いては、事前説明と告知についてです。当校では、顧客への説明や告知は、手技や免許と同じくらい大切なツールだと考えています。その為、事前説明や告知を上手にする方法を学べる『トータルカウンセリング』セミナーを10月から私が担当することになっています。やはり今回ご紹介する消費者問題においても、この事前説明と告知が取り上げられていました。
エステ・美容医療サービスに関する消費者問題についての実態調査結果と建議の概要 P.3
美容医療ではやはり、麻酔やメス、針を使いますので、事前説明は絶対必須ですよね。では、エステではどうでしょうか?エステでは、麻酔やメス、針などの医療器具は使用しませんが、先程も触れたように、セラピストの手以外に使用するものがある以上、事前説明としてどんなジェル、どんな器具を使用するのかをお伝えする必要性は十分あると思われます。これらの上手な伝え方が知りたい方は、是非『トータルカウンセリング』を受講してみてください。
エステ・美容医療サービスに関する消費者問題についての実態調査結果と建議の概要 P.3
エステだけでなく、様々な業種で個人事業主が知らず知らずのうちに犯してしまう事が多いのがこの『不実告知』です。これは、「先着○○名!」とか「今だけ!」とか、普段からよく目にするキーワードの落とし穴です。
私は元々、広告宣伝業が本業でしたので、こうした表記がどれだけ集客力があるかをよく知っています。最近では「集客が倍増する法則教えます!」的なブログやメルマガを、業界調査も兼ねてよく利用しますが、これらのキーワードを「魔法の言葉」として取り上げ、これを書いておけば集客数が増えるとあおり立てます。
しかし、広告には確固たる法律が存在しています。業種によって多少の差異はありますが、『不実告知』は消費者契約法第4条により取り消し可能となる、とされています。事実と異なること、客観的に真実でないことを告げていたと分かった場合、その取引契約は無効となり、全額返金する義務があります。口頭でも書面でも、消費者が認識できる方法であれば良いとされ、また事実でないことを事業者(サロン側)が認識している必要はありません。知らず知らずのうちに、ちょっと盛って話をしてしまうクセのある人は、普段から気をつけておいた方が良さそうですね。
被害防止のために私たちができること
このブログを読んで下さっている方のほとんどが、既にサロンを経営されているか、将来サロンの開業を夢みている方だと思います。ですから、みなさんは誰一人として故意にお客さまを傷つけようとする人はいないと思います。しかし、ここまで見ていただいておわかり頂けたように、わざとでなくても結果としてお客さまを傷つけてしまう事は、どんなサロンにも、どんなセラピストにも起こりうることです。
そうした万が一を、十が一にするか億が一にするかは、私たちセラピスト一人一人の普段からの心構えが大いに関わっています。調査結果にもある通り、被害防止の為に国や自治体も法整備や相談窓口の設置、こうした調査結果の公表などを通して情報提供をしています。公益財団法人日本エステティック研究財団では、エステティックの衛生基準なるものを配布して、認定制度まで設けています。(お恥ずかしい話、今回の消費者委員会の調査結果で初めて知りました。。。)また、各手技の認定を行っている団体でも、それぞれの技術における禁忌事項や法律知識についてのセミナーや認定制度を行っているところも少なくありません。
業界における被害防止のために私たちセラピストに出来ることは、こうした制度を最大限に利用し、常に勉強し続け、そしてそれを全うすることです。そして、私たちのそうした日々の心掛けがあれば、数年後の同調査における相談件数から、エステに関する相談件数
を半減させることも夢ではないかもしれません!
大切なのは、私たち一人一人が、この業界の代表として誠実に事業をしていくことだと思います。今回ご紹介した内容は、全てインターネット上で閲覧・ダウンロードできますので、是非いちど目を通してみてください。
次回は、同調査報告より広告に関する調査報告を、マーケティングの観点からご紹介します。
【連載:エステ・美容医療サービスに関する消費者問題について考える】
- エステ業界の消費者問題を知る
- エステ業界の広告